ヘボインタビュアーと名インタビュイー ~『ダブドリ vol.26』発売に寄せて~

ご登録いただいた皆さん、ありがとうございます。また、記事が1本も出ていないにも拘らずサポートメンバーになってくださった方もいて、感激してます。さて、「籠球闇鍋」の記念すべき1本目は、1月30日発売の『ダブドリ vol.26』で山際爽吾選手をインタビューした際に感じたことをまとめてみました。
大柴壮平 2026.01.17
誰でも

達者な小野龍猛、ボヤキ節の生原秀将

インタビューを得意だと思ったことが無い。

ダブドリを創刊してからだから、かれこれ8年以上仕事としてインタビューを続けていることになる。

しかし、いまだに出来不出来の差が激しい。

元来臆病な性質なので準備は入念にする方なのだが、万全を期したつもりの時ほどいまいちな出来になるのが面白いところだ。

不出来にはいくつかのパターンがある。

まず、こちらの思い込みが過ぎた時は危険だ。この選手はこういう人だろう、という先入観と実際の人物像に差があると、手元の想定問答が一気に無用の長物と化す。

語ってほしいテーマに固執するのも避けた方が無難だろう。例えテーマから逸れていたとしても、インタビュイーが力を入れて語ってくれる話があったならそちらに時間を割いた方がいい。

経験を積むごとにこの手の失敗は少なくなってくるが、自身の瑕疵を減らしたとしてもそこがようやくスタート地点だ。

相手を気持ちよく喋らせるコミュニケーション能力、散らかった話をまとめつつ着地点を作る構成力、相手の話を膨らませる質問力などなど、上手いインタビュアーは様々な能力を備えている。

インタビューが得意ではないと思っているぐらいだから、私は上記のような能力に乏しい。

それでもたまに出来のいいインタビューがあるのは、インタビュアーの不出来を補ってくれる名インタビュイーというものが存在するからだ。

名インタビュイーにもいくつかのパターンがある。

まずは単純に話が上手いインタビュイー。『ダブドリ vol.11』に出てくれた小野龍猛選手は、全ての話のテーマが明確で、かつ自分の見解も提示し、さらにオチまで用意してくれた。この時のインタビュアーは岸田彩加アナウンサーで私は補佐だったが、それだけに小野選手のトークスキルの高さを客観的に見ることができた。あとで吉本興業がマネジメント契約を結んでいると知った時は、さもありなんと得心したものだ。

自分の言葉を持っているインタビュイーも頼もしい。『ダブドリ vol.2』で生原秀将選手に会った時は驚いた。私は見た目とプレーしか知らなかったから、爽やか系か熱血系か、もしくはその中間ぐらいに目星をつけていた。しかし、口を開けば故・野村克也監督を彷彿とさせるボヤキ節なのだ。

話振りが印象に残っていたので、『ダブドリ vol.14』では現在の「旅ささら」の前身である「スナックささら(vol.14に限りロケ地の関係で『SPORTS BAR SASARA』と題した)」のコーナーに再度登場してもらった。この時はキング開選手と二人で出てくれたのだが、ボヤキ節が健在で嬉しかったのを覚えている。

インタビュアー側の意図を汲み取ろうとしてくれる選手もありがたい存在である。拙い質問でも何かネタになるような話を絞り出そうとしてくれる。協力的な姿勢はインタビュアー側にも伝わるもので、そんな時は何とか良いインタビューにしたいと、こちらも自然と気合が入る。この手の選手の代表格は寺嶋良選手だ。大の読書好きだからこそ話の構成に気を配れたのだろうし、構成に気を配る力があるからこそ単行本を書き上げられたのだろう。

危険な予感

最新刊の『ダブドリ vol.26』で私は山際爽吾選手の取材を担当したのだが、これはコケる可能性を秘めた危ない案件だった。

と言うのも、山際選手の取材はそもそも私自身が希望したもので、その理由は私が山際選手に惹かれていたからだ。

山際選手のことを初めて知ったのは、横浜エクセレンスのトレイ・ボイドとエライジャ・ウィリアムズを取材した時だった。対戦相手で印象に残っている選手は誰か、という私の問いにボイドが「岩手のナンバー6だ」と答えたのだ。

ボイドは俺様的なプレースタイルとは裏腹に、こちらの質問一つ一つに時間をとって答えを出してくれる、ありがたいタイプのインタビュイーだった。だから思いつきというよりは熟考の末に山際選手の背番号を挙げたことになる。

あのトレイ・ボイドが認めた選手。それが私の中で初めて認識した山際爽吾だった。その3週間後、奇しくも横浜エクセレンスは昇格をかけたプレーオフで岩手ビッグブルズと当たることになった。

友人の石田剛規がGMを務める縁でエクセレンスのプレーオフを追っていた私はその3試合に及んだシリーズを全て現地で観戦したのだが、エクセレンス目線で最も怖かったのが山際選手だった。

ゲーム1では接戦の終盤残り4分から7得点の固め打ちで勝利に貢献。勢いに乗ったゲーム2は惜しくも敗れたものの、14得点5アシストと気を吐いた。最後のゲーム3では山際対策に燃えるエクセレンスのディフェンスを逆手に取りボールムーブメントに専心する強かさを見せ、ファイナル進出まであと一歩に迫った。

ボイドの言ってた山際爽吾ってこの選手か。本物じゃないか。

すっかり山際選手に魅了された私は早速ネットで検索をかけたが、ほとんど情報が出てこない。ヒットしたのはB.LEAGUEの公式サイトかビッグブルズ加入の際の公式発表ぐらいだった。

なぜこのレベルの選手がここまで注目されていないのだろう。

そんな疑問を解消すべく私は岩手に向かったのだ。

このような経緯だったので、取材前から私の山際選手への期待値はかなり高いものだったし、さらに言えば世に山際爽吾の存在を知らしめたいという大義めいたものまで感じていた。

名インタビュアーならば問題ないだろうが、前述の通りインタビューに関して私はヘボの部類に入る。始める前から気持ちばかり先走っていては先が暗い。

危ない案件だった、と書いたのはそのためだ。

このピンチを救える者はただ一人であり、それはインタビュイーの山際爽吾その人だった。斯くして、インタビューの出来は初めから山際選手の双肩にかかることとなった。

名インタビュイー、山際爽吾

本誌に採用された一枚。山際選手は撮影にも非常に協力的で助かった。

本誌に採用された一枚。山際選手は撮影にも非常に協力的で助かった。

結果から言えば、出来のいいインタビュー記事が書けた。

山際選手のこれまでの歩みだけでなく、その人となりも伝えることができたと思う。

手前味噌が過ぎると思うかも知れないが、私は自画自賛しているのではない。山際選手が優秀なインタビュイーだと褒めているのだ。

インタビュイーとしての山際爽吾は、寺嶋良タイプだった。

どんなに拙い質問をぶつけても、嫌な顔一つせず時間を取って答えを考えてくれた。

例えば「自分がプロチームのキャプテンになったら、どういう風にリーダーシップをとるか」という質問は、山際爽吾をして答えに窮せしめた。会話の流れで聞いたのだが、よく考えればルーキーに尋ねるようなことではない。考えたことなかったですね、と山際選手も率直な感想を口にしたが、それでもその場で自分の未来を想像し、これまでの経験と照らし合わせて回答してくれた。山際選手がどう答えたかは是非『ダブドリ vol.26』を読んで確かめていただきたい。

ここで重要なのは答えの内容ではなく、応対の態度である。

寺嶋選手の場合は読書好き、本好きというバックボーンがあるからこそ、あれだけ親切に答えてくれるのだろうと想像できる。インタビュイーも記事の作り手の一人である。寺嶋選手は無意識にそのことを理解しているのではないだろうか。

では、山際選手の場合はどうだろう。

山際選手も読書が好きな可能性はある。実際に、メンタルの話題でとある本から受けた影響を語っていた。ただし、これは憶測に過ぎない。

私の印象では、山際選手が優秀なインタビュイーである理由は別にある。

それは、自尊心の強さだ。

自惚れとかナルシシズムとは違う、健全な自尊心を山際選手は持ち合わせているように思う。言うなればアメリカ人アスリートのようなもので、客観的な事実に基づいて自身の価値を正しく認識しているし、それを隠そうとしない。

例えばそれは今季の目標を聞いた時に垣間見れた。

「B2のアシストランキングで1位になる。日本人の得点ランキングでも1位になる。そして完全にこのチームのエースになる」

これは山際選手の答えの前半部分だが、実に明確だ。この発言が私の印象に残ったのは、山際選手がスタッツに言及したからである。

日本人選手をインタビューしていると、「自分のスタッツには興味が無い」という趣旨の発言を聞くことが多い。もちろん、チームが勝つためなら自分のスタッツなど気にしない、というチームファーストの姿勢は讃えられるべきだ。

しかし、山際爽吾は個人の数字とチームの勝利の二兎を追うことに何の躊躇も持っていない。インタビューを読めば、それがエゴではないことがわかるだろう。個人として素晴らしい数字を残して、チームを勝利に導く。相反することなど何一つないのだ。

では、なぜ山際爽吾は自惚れや傲慢と違う、正しい自尊心を持つにいたったのだろうか。生まれつきか、家庭環境か、それともその後の人生における紆余曲折が原因か。

そういったところを想像しながら『ダブドリ vol.26』掲載のインタビューを読んでいただけたら幸甚である。

無料で「大柴壮平の籠球闇鍋」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
迷惑メールフォルダ注意喚起
読者限定
トゥオマス・イーサローのバスケ進化論とB.LEAGUEの地殻変動
読者限定
テーマ「岡田優介理事の海外リークアカウントに対する警告と遵法文化論につ...
誰でも
注意喚起
読者限定
私はAI
サポートメンバー限定
続・サラリーキャップのある世界へようこそ ~ベンドラメ礼生選手の問題提...
読者限定
拝啓 Bリーグファンの皆様、サラリーキャップのある世界へようこそ
読者限定
宗教つまみ食い