トゥオマス・イーサローのバスケ進化論とB.LEAGUEの地殻変動
バスケットボールはトレンドのスポーツ?
バスケットボールに正解は無い。
2014年のNBAファイナルを観た多くのファンは、サンアントニオ・スパーズがついに正解にたどり着いたかと感嘆した。
ところが、翌年にはステフィン・カリー率いるゴールデンステート・ウォリアーズが正解を書き換えてしまった。
ジャンプシュート主体のチームは勝てない。トランジションの得意なチームを作っても、展開が重くなるプレーオフでは通用しない。
そんな常識を破ったウォリアーズを、他チームもこぞって真似た。2015年6月以降、世はペース&スペースの時代に突入した。
正解は無いがトレンドはあるのがバスケットボールの面白さで、我々ファンが飽きるどころか年を追うごとにのめり込む理由でもある。
トム・ホーバス前HC時代の日本代表のようにとにかくスリーポイントを打つという戦術は、NBAでも10年ちょっと前に流行っていた。
スリーポイントの少なかった当時の日本代表には劇薬となったが、そこから進化できなかったことがホーバスHC解任の要因の一つとなったと言っても過言では無いだろう。
NBAでは、スリーポイント多投時代が到来したことでスリーポイント対策もアップデートされた。スリーポイントを対策されると、それを囮にゴール下を狙うチームが増えた。スリーポイントかゴール下。二つの選択肢をバランス良く持っているチームは強いが、それでも上手く守るチームが増えてきた。一周回ってミッドレンジの成功率が高いハンドラーの価値が上がっている。NBAが辿った進化の過程はあらましこのようなものだ。
ゴール下、ミッドレンジ、スリーポイントのスリーレベルでスコアもできればアシストもできるニコラ・ヨキッチやシェイ・ギルジャス・アレクサンダーのような選手が現れた今、次はどんなトレンドが生まれるのだろうか。
予測不可能だからこそバスケは楽しいのだ、と私は思っていた。
ところが、そうではないという者が現れた。
バスケットボールの進化にはルールがある。
そう主張するのは、メンフィス・グリズリーズのHC、トゥオマス・イーサローだ。
イーサローのバスケ進化論
イーサローの名が最初に世に知られたのはパリ・バスケットボールを率いていた頃のことだ。
ドイツのテレコム・バスケッツ・ボンで頭角を現したイーサローは2023年にパリ・バスケットボールのヘッドコーチに就任すると、史上最高記録の22勝1敗でユーロカップを制した。平均19.1点差がユーロカップ記録になるというオマケ付きだった。
イーサローの面白いところは、スカウティング以外ではほとんどバスケットボールを観ないという点だ。
余暇はサッカーなどの他競技の観戦や読書に充てているという。理由は、
「イノベーションは異なる概念が組み合わさった時に起きる。サッカーなどの他競技を見て、そのコンセプトをバスケットボールのコート上でどう具現化できるかを常に考えている」
からだそうだ。
イーサローの言葉には人を惹きつける魅力があり、その全てをイーサロー語録として掲載したいぐらいだが、本稿ではバスケの進化に言及している部分を紹介する。
他の話にも興味があるという人は下記のリンクをチェックしてほしい。おそらく最も詳細にイーサローの哲学が知れるのはこの動画だ。
イーサローによれば、進化の方向性を知るキーワードは二つある。高速化と高強度化だ。
「これはバスケットボールに限った話ではありません。サッカーなどのインベージョンスポーツ(敵陣のゴールやエリアをインベージョン、つまり侵略して得点を競うスポーツの総称)全般に言えることですが、進化の方向性は常に『高速化』と『高強度化』に向かっています。そして、一度進んだ時計の針が戻ることはありません」
「なぜなら、相手が守備の陣形を整える前に攻撃を仕掛ける方が、構造上の得点期待値が圧倒的に高いからです。人間がより効率的な勝利の手法を追求し続ける限り、ゲームのペースが遅くなる理由はどこにも見当たりません」
「YouTubeで60年代から現代までの映像を観てみてください。かつて『速すぎる』と批判されたマイク・ダントーニのサンズですら、今の基準で見れば遅く感じます。同様に、2030年代の指導者や選手から見れば、我々が今『最先端で速い』と思っている現在のゲームも、ひどくスローに見えるはずです」
イーサローがパリ・バスケットボールをユーロカップ優勝に導いて以降、ユーロのバスケットボールの高速化、高強度化に拍車がかかっている。
昨年のNBAファイナルも、おそらく史上最も高速かつ高強度なシリーズだった。
ヨーロッパに限らず、世界的な潮流を見てもイーサローのバスケ進化論には一理ありそうだ。
B.LEAGUEの数字に見る地殻変動の予感
イーサローのバスケ進化論が正しいと仮定して、この観点からB.LEAGUEを見てみよう。