君ライターになるなかれ
昔ライター志望という方から手紙をもらったことがある。
こういう文章を書いてみたから読んでほしいということで、原稿が同封されていた。
内容はたしかコービー・ブライアントへの追悼文だったから、2020年のことだと思う。
文章はよく書けていた。
技量的には足りていると思ったので、その旨と共に、ダブドリでライターの募集はないこと、バスケットボールキングなどのウェブ媒体であれば仕事をもらえる可能性があること、ただし対価は極めて安いだろうことを書いて返信した。
彼のその後は知らないが、現場で挨拶されたりはしていないから、ライター業には就かなかったのだと推測している。
実力を考えれば、なれなかったのではなく、ならなかったのだろう。
そしてならなかったのであれば、その理由は金だろうと思う。
執筆の単価は安い。安いからとにかく沢山書かなければならないが、書くという作業には時間がかかる。試合の記事ならまず試合を観に行かなければならないし、会見で話を聞いたら文字起こしをしなくてはならない。今はAIのおかげで随分文字起こしは楽になったが、それでも完璧ではない。修正にそれなりの時間をとられる。
それができてようやく執筆開始だ。筆の早い人はいいが、遅筆の人は苦労するだろう。ただし、これはある程度経験で克服することができる。NBA楽天から連載の仕事をもらっていた頃はキャリア初期だったから、ひとつコラムを書くのに私は平気で二、三日かけていた。それから六年経った今、似たような案件で日をまたぐことはなくなった。単純計算で執筆速度が二、三倍速くなっていることになる。
昔のライターは、上手くいけば自著を出版するチャンスに恵まれた。月々の実入りは少なくとも、たまの印税には夢があっただろう。
しかし、今はご存知の通りの出版不況だ。読書は余暇の過ごし方としてSNSやゲームに勝てなかった。私は本を読みますという人も、読書そのものを楽しむというより、そこから何かを得たいという人の方が多いように思う。作る側も迎合して、見出しを拾えば何かを得た気分になれるような本を量産している。
本文より見出しが大事ならライターよりコピーライターを雇うべきで、求められるスキルが違う。ライターが自著を書く機会がないのも道理だ。
おそらく、2026年現在ライター業一本で食えている人間はごくわずかだろう。独身ならなんとかなるかも知れないが、家庭を持ちたいなら共働きは必須だ。
私がこのレターを毎週書く余裕があるのも兼業だからで、ライター一本だったら最初の三か月でギブアップしていたと思う。
とりわけバスケットボールというジャンルはマイナーである。球技である程度の広告収入が見込めるのは野球だけだ。バスケットボールは需要が少ないから、仕事も少なければ単価も低い。バスケットボールの記事をメインにしているライターはほとんど変態だと私は思っている。
例えば永塚和志さんなどは自分が気になる案件があれば、出す媒体が決まっていなくても海外まで行く。よしんば記事に買い手がついても、海外出張の費用を賄えるほどのリターンはないだろう。尊敬の念もあるが、それよりも驚嘆という表現の方が近い。
そんな儲からないライター業をなぜか私は今も細々と続けている。あの頃より経験を積んだ今、もしまたライター志望の方に相談されたら、今度はどう答えるだろうか。