上海ファイナル取材記(前編)
2026/09/04
成田エクスプレスで成田へ。
羽田から虹橋に飛ぶのが最速なのだが、家から遠い成田から飛び、ホテルから遠い浦東に向かうのが最安値ということで、泣く泣くこのルートを選んだ。
前日YouTubeで上海行きの話をしたところ、チャット欄でVPNは絶対に入れた方がいいと言われた。中国政府は独自のファイヤーウォールでGoogleなどのサービスを規制しているとのこと。ちなみに万里の長城に引っ掛けて「グレート・ファイヤーウォール」と呼ばれているらしい。普段使っているサービスが使えなくなるのは心もとないので、Geminiお薦めのMillenVPNに入る。ところが、接続してみると日本にいるのにGoogleが使えなくなってしまい焦る。20個ぐらいある回線を片っ端から試し、最後の数個のところでGoogleも見られるように。
VPNの設定に悪戦苦闘している間にもGeminiには「楽天モバイルなら平気だ」と言われ続けたが、死活問題なのでAIを鵜呑みにはできない。
MQさんの勧めに従い、空港で機内とホテル用のスリッパを購入。現金はほぼ使う機会がないとのことだったが、電波のトラブルがあると嫌だったので2000円ちょっとを替えて80元を財布に入れる。
所要時間はたったの3時間。友人が編集に関わった『地面師連絡役カトウ 積水ハウス55億円詐欺事件、ある実行犯の告白』を読み終わる頃にちょうど到着。
バックパックとウェストポーチという装備だったので荷物の受け取りもなく入国審査へ。しかし、ここでかなり時間をかけられて不穏な空気に。ひとりだけ「こっちに来い」と別ルートに通される。
実は高崎ストップで会った際にライターの大橋さんから「中国は短期間ならビザなしで行けるが、ジャーナリストはビザを申請する必要があるらしい」と脅かされていた。
しかし、ジャーナリストと言ってもFIBAの申請におけるカテゴリーがジャーナリストなだけで、共産党が嫌がるような取材をする予定はない。しかも今大会の記事を書いてメディアに売る予定すらない。あるのは大掛かりかつ具体性のないプロジェクトをなんとかやり遂げたいという意欲だけだ。これでジャーナリスト用のビザを取る方がむしろ滑稽だろう。
そう思ってはいたものの、実際に足止めを喰らうと肝を冷やすものだ。FIBAが入国管理にジャーナリストのリストを送っているのだろうか、などというあり得ない妄想が頭を過る。
ドキドキしていると、ふたり目の入国管理官がわかりやすくパスポートの写真と私の顔を比べはじめる。何のことはない、写真と別人だと疑われたのだ。たしかに当時より老い、禿げ、痩せた。写真と違い髭も剃っている。
計3人の管理官に見比べられた結果、なんとか通り抜ける。偽物だと言われていたらどう無実を証明すればよかったのだろうか。今となってはわからない。
電波はGeminiの言う通り楽天モバイルで全く問題なかった。楽天モバイルがなぜグレート・ファイヤーウォールを乗り越えられるのかはよくわからない。
アリペイのアプリ内でDiDiを呼べるということで試したところ、乗車から支払いまでスムーズに完了する。
ホテルは古いが、ロビーと客室はリノベされている。受付の女性が翻訳アプリで「客室は3階の8316号室」だと教えてくれる。たしかに、そう言われなければ8階に行っていただろうと思いながらエレベーターへ向かう。
部屋に着くと、時刻は16時過ぎ。小腹が減ったのと、飛行機で固まった腰が痛かったので歩くことに。中国でGoogleマップは使い物にならないとのことだったので、百度地図の精度を試しがてら、会場まで行こうと思い立つ。ファミマでホットスナックコーナーにあった麻辣味の焼き鳥とお茶を買い、歩く。肉はザ・コンビニという味だが、お茶は八村塁が宣伝していたのでバスケファンにはお馴染みの颯みたいな味で美味い。
百度地図のGPS精度は高かった。ただし、毎回Geminiに簡体字に変換してもらうのが地味に面倒だ。
ホテルのあるエリアは雑然としていて、いかにもアジアの街にきたなという雰囲気だったが、通りを二本ぐらい進むと、いきなり目の前に超大都会が現れる。新しく開発されているエリアだとは聞いていたものの、ものすごい数のビルに驚く。
中国には衛生面で偏見があったが、ごみは落ちてないし、ごみ箱がある。ショッピングモールなどのトイレも奇麗だし、喫煙エリアも指定されていることものちに判明する。
40分歩いて到着すると、会場は屋内のようでホッとする。
会場の位置が確認できたので帰ろうとした矢先に川沿いでFIBAのクルーに撮影されているネフチ・ソカールを見つける。
前日だか前々日に桂から発熱したという連絡を受けていたが、撮影に参加しているのを見て安心する。一週間ぶりに見た桂は痩せているし肌つやも良くない。桂によれば発熱で体重が3、4キロ落ちたとのこと。競走馬ならパドックで人気を落としていただろう。
桂についていき室内での撮影にも同行。桂によれば、去年は屋外でやっていたが、めちゃくちゃ不評だったので屋内に変更されたらしい。会場を見た桂の感想は「狭いな」と「人入るんですかね」だった。二つの感想は一見相反する方向性を持っているが、高崎と比較すると狭かったし、幟やポスターの数が少なかったので、両立するのだ。屋内になったことでフラッと来る人の数も減るだろうな、とも思った。
面識のあるラシャ(コーチ)、レクシー(アレクサンドラ・モレンハウアー)、エリカ(エリカ・カーター)と挨拶。もう一人のスキンヘッドのコーチとブリー(ブリアナ・フレイザー)にも自己紹介したかったが、チャンスを逸する。
屋内ではボールや中華風の小物を使い撮影。コーチふたりはまるで興味がないようで、虚空を見つめてじっとしている。
レクシーのスマホの背面にZOOSのステッカーを発見。
ブリーに顔がクレイジーになってるぞと冷やかされて、エリカが撮り直しを要求する。ふたりは仲が良さそうだ。
撮影のあとはシューティング。先にコートにいるドイツが終わるのを待つ。
ドイツのシューティング後、ZOOS時代の桂のチームメイト、アマに挨拶。
「三菱を倒した試合を観たよ」
「あれは大事な一戦だったね。ファイナルに出なきゃいけなかったから、高崎ストップもドキドキしながら見てたんだ」
「日本代表がめちゃくちゃヤル気だったよ」
「そう、それも想像してたし、バンコクで試合したときにすでに三菱は疲れているように感じたんだよね。フユコ(高橋芙由子)とヤマモト(※おそらく山本雪鈴)は多分全試合出たでしょ? まあだからなんとかなるかなとは思っていたけど。日本代表は決勝に上がれたし、よかったよね。最初ひどかったところから最後はすごくよくなった」
「ユカ(前田有香ヘッドコーチ)にとっても大きかったよね」
「あ、そうだった! ユカがコーチやってるってすぐ忘れちゃうんだよね」
このプロジェクト用の取材も受けると言ってくれる。ただし、当面は日本に来る予定はないとのこと。将来的にはWリーグでプレーしたいらしい。
ネフチのシューティング。桂は辛そうだが、シューティングゲームにも参加している。シューティングを見るとエリカのスムーズさが伝わる。ちゃんと足の力で打っている人のフォーム。ブリーは頭にかつぐ「どっこいしょ」系。レクシーは右目にセットしてから足と腕を両方一気に使って打つタイプ。
桂はシューティングだけでも「まじやばいっす」と言っていたが、明日までにどこまで回復するだろうか。
ブリーとエリカで入場曲を決める。グウェン・ステファニーの”Hollaback Girl”とリル・キムの”The Jump Off”で悩みリル・キムをセレクト。どちらもめちゃくちゃ私の世代の曲で笑う。曲に合わせて踊るブリー、めちゃくちゃ踊るエリカ。
そこから選手たちのホテルまで行くシャトルバスに同乗。桂からチームの状況などを聞く。ネフチのチームワークが上がるように骨を折っているらしい。
「そのせいで出た知恵熱かもしれないです」と冗談を言う桂。
選手たちが泊まるホテルは高級そうなところだったが、他の国ではこんなことはなく、中国のオーガナイザーが金を持っているかららしい。
「俺もネフチのメンバーってことにしてもらって、こっちに泊めてもらいたかったわ」と、軽口を叩くと、FIBAからは選手たちの分しか出ないのでコーチの分はチームが出している教えてもらう。
ホテルのエントランスで桂がエリカに「彼はあなたがベストだと言っている」と伝える。
「君がチームを引っ張らなきゃね」と調子を合わせると、「あなた英語喋れたの?」と驚かれる。
「東京で取材受けたときは通訳いたよね(※大西玲央)」
「あいつは友達で、プロなんだ。10年だか15年だかアメリカに住んでいたらしい」
「たしかに、彼の英語は完璧だったわ」
「NBA選手が日本に来るときも彼がよく通訳しているよ。レイ・アレンとかデリック・ローズとか」
「めっちゃ大物じゃん」
桂と少ししゃべったあと、トレーニングがあるということで、ホテルで別れる。
腹が減ったので近くの店で麺を食す。上海では英語が通じるという話だったが、全然通じない。Googleレンズを頼りに牛肉と牛筋の麺をオーダーする。少し甘めだが美味しい。
徒歩でホテルに帰り、初日を終える。
2026/09/05
以前と違い一人飲みをやめたことで海外でも快眠できた。
朝食を求めて近所を散策。麺を出している店で、羊肉入りの刀削麺を注文する。スモールを選んだものの朝からものすごいボリュームを食べる。美味。
上海は小さい店でも本当にアリペイだけでいけるようだ。早くも現金を使わずに帰る予感がする。
楽天モバイルは海外で2GBまで無料だが、すでに残ってるのが400MBだけだと通知が来る。残りの日数を考えて5GB買い足す。
大会が午後からということで、日中はNBAダイナー用のプレゼントを買いにいくことにした。NBAダイナーでは年に数回ライブハウスのロフトでトークショーを行うのだが、そのときに毎度抽選プレゼントを用意している。すでにネタ切れだったのでちょうどいいタイミングだったのだ。
運動不足解消のため、電車には乗らず歩きでアウトレットへ。日本も男が日傘をさすようになったのはここ1、2年のことだが、上海ではまだその文化がないらしい。私は日傘なしには歩けなくなってしまったのでチーム女性に加わる。
道すがら、工事現場をよく見る。街の新陳代謝のスピードが速そうだ。廃墟みたいな病院、廃墟みたいなスポーツクラブがあったが、早晩建てかわるだろう。
アウトレットでアンタやリーニンなど中華系のスポーツブランドを物色する。おそらく中国にはまだ進出していないだろうBEERキャップに、中国でも死滅しているらしいウェストポーチという怪しい風体だからか、店員に全く話しかけられない。
アンタやリーニンよりも日本で見かけないだろう361°を発見。おばちゃんと翻訳アプリを介しながら会話して、ニコラ・ヨキッチとアーロン・ゴードン関連の商品を探してもらう。
ジョーカーロゴのキャップひとつ、ソックスふたつ、AGロゴのロンTを購入する。
このアウトレットのトイレも奇麗だったが、気になったのは手を洗うスペースが男女共有だったことだ。日本の女性には不人気だろうなと想像する。
昼食はまだ食べていなかった点心に挑戦。
悩んだ結果小籠包を選んだが、肉汁が出てこない。これなら日本で食べた方がよほど美味い。
小籠包に不満足だったので、他の店で平たい肉まんを買う。この旅では食物繊維が足りていないと感じていたので、高菜が入っていたことに幸運を感じる。しかし、やはり味は大したことがない。総じて点心は日本の中華料理屋の方が美味いと結論付ける。
上海は治安がいいと聞いているが、たしかに警察車両をよく見かける。アウトレットから出る際、車道を突っ切ろうとしたら目の前に警察車両があり、慌ててやめる。
交通に関しては慣れが必要だ。赤信号でも右折をしていいらしいが、減速せず歩行者のギリギリを攻めてくるので心臓に悪い。また、車両が歩道に乗り入れられるところが多いので、ボーっとしてるとひかれそうになる。特に日本と比べてバイクが多く、注意が必要。古いバイクが大量に走っているのは「アジアに来た感」がある。
大会が15時過ぎに始まり21時過ぎに終わるので、ローソンでおやつを買う。一本満足バーのような栄養補助食品は見かけなかったので、月餅をいくつか買う。
試合開始に合わせて会場へ。