冨山晋司ナード説 ~書評:❝プロフェッショナル❞ バスケットボール観戦術~
先日、私宛に一冊の本が届いた。
署名は『❝プロフェッショナル❞ バスケットボール観戦術』、著者は冨山晋司コーチだ。
冨山コーチはbjリーグで千葉ジェッツのヘッドコーチを務め、Bリーグではアルバルク東京のアシスタントコーチや大阪エヴェッサのアソシエイトコーチを歴任した。2021年にJBAのテクニカルスタッフになると、ホーバスジャパンのアシスタントコーチを経て現在はU17/18男子日本代表のアシスタントコーチをされている。
メディアの私からしたら本来は取材対象なのだが、実は冨山コーチと私の関係はややプライベート寄りだ。
最初に会ったのは、いわゆる草バスケだった。
会話を交わしたかどうかは覚えていないが、友人からプロコーチだと聞いていたので私も名乗るぐらいはしたと思う。
印象に残っているのは、プロコーチだからと大上段に構えるのではなく、素人のバスケ愛好者たちを相手にかなり本気でプレーしていたことだ。
5年以上前の出来事なのになぜ覚えているかというと、冨山コーチからムービングピックを咎められたからで、私の中での第一印象は熱い人であり、そしてちょっとおっかない人だった。
それからしばらくは交流がないまま月日が流れた。
私が冨山コーチと再会したのは、昨年のことだった。親交のあるアブドゥル・ラウーフを日本に呼んでイベントを行うので、手助けしてほしいと人を介して相談があった。
結果的に大したお手伝いはできなかったが、そのイベントを通して冨山コーチの人となりを知ることができた。
冨山コーチはナードだ、と私は思う。
好きをとことん突き詰める、好きな分野へのこだわりが強い、社交辞令に興味がなく中身のある議論の方が好き。
こういったナードの特徴は全て冨山コーチに当てはまる。
好きが高じてヨーロッパまで観戦に行ったことがラウーフと知己を得るきっかけだったという。さらに日本に呼んでイベントまでやるのだからすごい。
草バスケで真剣にプレーしていた姿とも辻褄が合う。
冨山コーチはナードだ、という仮説が正しいと確信したのは、彼がNBAカードのコレクターだと知ったときだ。しかも往年はコレクター界隈で有名人だったらしい。収集癖はナードの特徴の最たるものだろう。
そんなわけで、冨山コーチの著書を手に取った私の興味は、彼のナード的気質がどう文章に顕れるか、だった。
結論から言うと、いい方に出ている、というのが私の感想だ。
大前提として、バスケットボール観戦術、というテーマは年間6、7万点刊行される書籍の中でも相当マニアックな部類に入る。おそらく購入する人間はバスケットボールという競技にかなりの興味と愛着、そして探求心を持っていることだろう。
この本は、そうした読者像をしっかり想定して書かれている。同じ道を歩んできたナードだからこそ、読者を信じて書けたのだろう。
それが顕著に表れているのが、用語説明の少なさだ。
基本的なバスケット用語はいちいち説明しない。少しマニアックなものについてはさらりと説明するものの、繰り返さない。
バスケ好きならついてこられるし、この本を買うほど興味がある人ならわからないことは調べるだろう。冨山コーチは読者を決してみくびらない。
過度な用語説明を省いたおかげで、文章のリズムが損なわれていないのがこの本の美徳である。
解説本が陥りがちな説明過多が引き起こす睡魔とは無縁だし、それを避けて先生と生徒の会話文で進むようなスタイルの本よりも、同じページ数であれば本書の方が多くのことを学べるだろう。
初級編、中級編、上級編という構成の妙もあり、レベル感的にもそこまで身構える必要はない。
それこそ先ほどの想定通りこの本を買うぐらいバスケットボールが好きなら観戦歴が浅くても読破できるだろう。
逆に私同様長年バスケットボールを観ているという人にとっては、うろ覚えだった知識の確認になる。例えば私の場合は、ソフトヘッジとハードヘッジの違いがぼんやりしていたが、定義をしっかり確認することができた。
また、冨山コーチがNBAとBリーグの両方に造詣が深いこともあり、例として両リーグの話が使われるのもいい。日本ではなぜかNBAファン層とBリーグファン層に乖離があるが、同じバスケットボールであり、バスケ好きならどちらも楽しめるということが本書を読めばわかるはずだ。
先にナードの特徴のひとつとして、社交辞令に興味がなく中身のある議論の方が好きだと書いた。
冨山コーチも、時折Xで一般ユーザーと議論しているのを見かける。
XというSNSの性質上失礼な輩も多いので、まるで口論しているように見えるときもある。
仮に冨山晋司ナード説が正しいとすれば、冨山コーチにとってはその舞台がXだろうが、相手が一般人だろうが、大好きなバスケットボールの議論はいつでもウェルカムなはずだ。
ただし、議論が成立するには、相手も同じようにバスケットボールに情熱を傾けている必要がある。Xによくいる冷やかしのような連中では話にならないのだ。
そのうちこの本からバスケにのめり込んだ人たちが冨山コーチとXで熱く議論を交わす日がくれば面白いし、それがナード冨山の望む世界なのではないかと私は考えている。
改めて、冨山コーチ、ご出版おめでとうございます。
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